今夏、世間を(けっこう)オモシロ楽しく騒がせた話題作にして、杉鉄史上最大!色んな意味で問題作『電クラ』。
何がどう問題なのかというと、さしたる問題はないところが問題だ。
いや、そんなことはない! (どっちだよ)
二人が本作を引っさげ札幌・焼津・福岡・名古屋・大阪…と日本各地を可能な限り鉄路を利用して回り、最後に辿り着いた駅は、山手線と京浜東北線の停車駅「鶯谷」。
これほどまでに地味?で淫靡かつデンジャーな場所がツアー最終地に選ばれた理由とは?!
↑最後まで読んで頂いてもこの謎は解けません。悪しからず。
今更感は拭えないが、念のため説明をさせていただく。
この『電クラ』という作品は、電車とクラシックの融合をテーマとし、杉鉄音楽実験室にて五線譜とNゲージ、メトロノームと時刻表などを共に煮たり焼いたり茹でたり揚げたりして、ピアノとヴァイオリンで香ばしくかつスパイシーに味付けを施した、耳においしいコント的クラシックである。
そして、そのテイストを日本各地にケータリングして回ったのが「電クラツアー2007」。
何といってもポイントは「うまいっ!!」であることをお忘れなく。それでは出発進行!
ステージにはご覧の通り「人力踏切」が置かれていた。左右の赤いライトが点滅を早めるに従い、客席の期待も徐々に高まっていく。二人はこの300人超の拍手の波を全身に浴び、指差確認の後、舞台に上がるのである。
ところで、この会場の素敵ポイントに「2階から舞台に登場するための階段」がある。完全に無視した格好だ。
個人的には、遮断機が下りている状態で運転士と車掌のコスプレをしている二人が左右から走って登場→特急以上の速さで互いの楽器の前にスタンバイ→楽譜をめくろうとしたらセットされていたのは時刻表→とりあえず演奏を始めようとするができない…というオープニングが見たかった。
・・・企画会議で即不採用になること間違いない案で申し訳ありません。
1曲目は舞曲「恋の片道切符」 。チャールダッシュ風にアレンジされたこの曲は緩急のバランスが良く、心ワクワクなオープニングにふさわしいメロディ。客席の温度も一気に上がる感じが
して、カメラを持つ手に自然と力が入った。そして、ブレた。
続いてご挨拶&トーク。すっかり雰囲気に慣れた様子に、大げさに言えば、隔世の感がある。
思えば、取材としては初めて二人を訪ねたのが、この東京キネマ倶楽部。当時のMCは杉ちゃんだけ。鉄平くんは掛け合いの相手にならない、寡黙な”王子”キャラだったことがウソのようだ。
それが今は。まさに“軽妙洒脱”なやり取りで会場の空気を思い通りに形作っていく。これだけでも二人の成長の一端を感じ取れるというもの。同時にお客さんも一緒に成長している様子も嬉しい。
左の写真は、実はとても紹介しにくい。というのも、真ん中にある赤い物体に原因がある。杉ちゃんが、とあるお店で購入もせず店員さんに睨まれながらコッソリ撮影してきたシロモノを大写しにしているからだ。
ちなみにコレ1枚ではない。覆面パトカーやゴミ収集車まで大集合。
そう、お察しの通り鉄平くんの持ちネタ(…?)”モノマネ・ヴァイオリン”コーナーの一場面。先日出演したTBSラジオでも、原口あきまさを大爆笑させていたこのテクニック。「きちんとした素地のある人がやることは、やはり重みがあるのだなぁ」、と眠い目を擦りつつ聞いていたことを振り返りながら、スクリーンと二人に注目していた。
いや、「ダブル・コンチェルト第一番『アマデウス・モーツァルト殺人事件』 ト短調 K.2006」。
右下の杉ちゃんは「○部警察」のDAIMONさんを表現。ちなみに「踊○大捜査線」のAOSHIMA・みんな大好きZENIGATA-HEIJIもばっちり披露。踏んだ場数の分、決まっておりました。
しかしここで羽目を外し過ぎたか、続く「ダブル・コンチェルト第二番 寝台特急『月光』 」で揃ってコートを脱ぎ忘れる失態。ゲストがいるというのに…。ちなみにゲストを含めたユニット名は“鉄道カルテット”。ウソではなく、本当に全員が「鉄」。

右端・チェロの武井英哉は「N派」。隣・ビオラの川名祥哉は「H派」。蛇足ではあるが、Nは「N(Nine)ゲージ」、Hは「HO(H0)ゲージ」。それぞれ鉄道模型の線路の幅(軌間)が異なり、金額的にはH>Nである。
コートを脱ぎ、気を取り直して演奏したのは左の写真「山手線上のアリア 」。ベースはバッハ「G線上のアリア」なのに、会場中から押し殺したけどガマンできない!笑いが堰を切って溢れ出し、誰もが笑顔でざわめく、という貴重な体験をする。この美しくも可笑しいハーモニーは、確かにムーブメントへの起爆剤に成り得た。この曲は間違いなく杉鉄を代表する名作だ。
モンティの「チャルダッシュ」が一応、最後の曲と紹介されるが、会場は恐らく全員分かっている。この曲が直後のリアル・アンコールへの、正に「序曲」であることを。EN2曲目は「亡き名鉄7000系のためのパヴァーヌ 」。このアレンジには原曲のモチーフとされた王女もさぞかし草葉の陰でビックリされていることだろう。しかし、さすがにツアー最終日はこれで終わらない。EN3曲目は「LIBERTANGO 」。二人が揃って”大好き”というだけあって、大団円を迎えようとする雰囲気をまるで「これがオープニング!」に引き戻しそうな迫力。杉ちゃんが足で刻むリズムもどんどん激しくなってくる。客席もこれに応え、なんとENは4曲目となった。本当に本当の最後の曲は「タイスの瞑想曲」。目を閉じて、取材を忘れてじっと聞き入った。暗闇にゆらめく蝋燭の炎を眺める自分をイメージしながら。
緊張と緩和。興奮と冷静。対極にある形容詞を交互に行ったり来たりする上質な鉄道の「旅」は、ひとまず幕を下ろした。
今年暮れには『電クラ2』の発売が予定されているという。きっと来年は新たな「旅」に出かけることができるのだろう。
ピアノとヴァイオリンを巧みに操る優秀な運転士の更なる技術向上に期待しつつ、この日は大満足で下車した。
【文中敬称略 担当:P】
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